「ジャリン子チエ」はマンガの形を取ったドタバタ喜劇と祝祭の文学である
面白いマンガはたくさんありますが、何度読んでも面白くて、飽きないマンガというものはなかなかありません。忘れた頃に改めて読み直してみると、思わずわれを忘れて引き込まれて、いつの間にか極上の喜びと幸福感に満たされるのです。そんなマンガを持っているということは、大げさにいえば、幸せな人生といえるのではないでしょうか。あなたも、きっと、そんなマンガを持っているでしょう?
今日は
まんが①死ぬほど面白いマンガを「まんたん」でみつけました
というカテゴリーのなかで
「ジャリン子チエ」はマンガの形を取ったドタバタ喜劇と祝祭の文学である
と題して進めます。
今村仁司先生は「マンガ名作講義」の中で、はるき悦巳作「じゃリン子チエ」について次のように書いています。
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なんべん読んでもおもしろく飽きない漫画はまれである。そのひとつが私にとっては『じゃりン子チエ』である。
最初、知人にすすめられて手にとった。開巻冒頭から強い印象をうける。どこがおもしろいか。まず画面だ。人物の顔、表情、とくに目つきがいい。表情は千変万化する。
つぎに言葉だ。大阪弁のギャグ、俗語というよりもキタナイ罵言雑言が乱舞する。大阪漫才そのものである。とても上品とはいえない罵倒語が交換されるが、それが人物たちを生き生きさせていく。
静止画像は、野生の言葉のおかけで、霊カをもった、現実の人物以上の生き物に変化する。若いときに大阪漫才を堪能した経験をもつ私は、いまではほとんどおめにかかれない活力ある大阪弁を『チエ』のなかに見いだして満足している。
◇ ◇ ◇
ストーリーーなどはない。大阪のある庶民街の日常生活が細々と描写されている。どこにでもありそうな、しかし決しておめにかかれない、なつかしい風景なのだ。
なぜなつかしいと感じるのか。登場人物の生活は確かに現在の生活らしいが、しかしどこかズレている。例えば、チエ、おばーはん、おじーはん、花井のオッチャンなどはゲタをはいているし、テツ、お好み焼きのオッチャンなどは草履をはいている。これなどはすでにわれわれから失われた風景なのだ。おまけにチエはゲタをはいて学校に通っている。
わたしたちの世代は小学五年ごろまでは、ゲタをはいて学校に通ったものだ。『チエ』はいまではなくなった経験を永遠に定着させている。半世記前の風景である。現在の普通の生活描写のなかに奇妙な異物が入り込んでいるのだ。そこがなつかしさの源である。『チエ』は、現在の庶民生活の民俗誌であり、失われた時の探求でもある。
『チエ』の世界は、一見普通のようでありながら、日常が転倒した世界である。
この世界で一番エライのは、子供、それも女の子供であり、次に女の大人である。男たちは、子供以上に子供であり、彼らはいつも困ると子供に助けを求める。チエが父のテツをホルモン焼きで「養育」しているのは、この世界を象徴している。
子供上位/大人下位、女上位ノ男下位の反転世界に加えて、人間語を理解し、人間以上に人間的な「猫たち」の物語が展開する。これもドタバタ喜劇であるが、この猫たちは、人間以上に人間的な言語表現を駆使して、人間世界を風刺する「批評家」である。
子供が大人以上に分別があり、言葉遣いも上品にして繊細であり、また猫たちが人間以上に高尚な詩的で文学的な言語を駆使する、まさにカーニバル的で祝祭的世界である。子供たちがこうあってほしいと期待するユートピアがそこにはある。
◇ ◇ ◇
もうひとつ、奇妙なことがある、世間では子供が成長し、娘や青年が結婚し、子供が生まれ、年をとるのに、チエは永遠に「小学五年生」のままである。彼女は永遠の少女であり、妖精なのだ。
すべての大人はチエに助言を求めにくる。テツ、おかーはん、おばーはん、おじーはんはもとより、やーさんも助言を求めにくる。彼女は「なぐさめ」を与える少女である,しかし、最も嫌われものであるテツも奇妙な結果をうみだす。彼がやくざをげんこつでなぐると、なぐられたやくざたちは例外なく、やくざから足を洗うのだ。
最も嫌われる鼻つまみものは、ここでは、知らぬまに癒しと再生の働きを発揮している。彼は荒ぶる神、トリックスターであり、どうということのない生活に生命を与える。ワレー、オンドレー、バカ、アホ、カス、イテモタロカ、等々の下品な言葉は実は生命を与える言菓なのである。
『じゃりン子チエ』は漫画の形をとったドタバタ喜劇と祝祭の文学とでもいえる。そこには一種の救いの効果があり、読者は、すがすがしい読後感を経験することができるといえよう。
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うーん。
何度読んでも面白くて、飽きないマンガというものは人生の宝です。今村仁司先生は「じゃリン子チエ」というマンガを持っています。あなたはどんなマンガを持っていますか?
「じゃリン子チエ」をどのように思いますか?
読んでみたいと思いませんか?
はるき悦巳作「じゃリン子チエ」は東京漫画探偵団(まんたん)に置いてあります。
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