2007年4月13日 (金)

伝奇ミステリー特集

Uemura こんにちは、まんたんスタッフのうえむらです。
すっかり春ですね。春とはあまり関係ないのですが、
今回は伝記ミステリー特集です。

Photo_13 まず最初にご紹介するのが星野之宣「宗像教授伝奇考/宗像教授異考録」です。
過去に2時間サスペンスドラマ枠でドラマ化されているので、
ご存知の方も多いかと思われます。
東亜文化大学で民俗学の教鞭をとる宗像伝奇
(むなかた・ただくす)が活躍するシリーズです。
主人公の名前が、博物学者、粘菌学者であると同時にすぐれた民俗学者でもあった
南方熊楠のもじりであることは言うまでもありません。
宗像教授は特徴的なファッションと豪快な胃袋、そして異質な、しかし
説得力のある学説を持った一風変わった大学教授。
日本各地・世界各地にあるさまざまな神話・伝承。
それらの裏側に潜む不可視の歴史的真実を、主人公独特の鋭い弁舌で
白日の下にさらすという物語です。
世界各地で語り継がれてきた神話や伝説には、何らかの歴史的事実が秘められている。
主人公独自の観点からそれらを調査分析し、知られざる史実を解き明かしてゆきます。
こうして書くと難しそうで敬遠してしまうお客様もいらっしゃるかと思われますが、
一度読み始めると、まるで推理小説のように導入部でひきこまれてしまいます。
そして物語が進むと同時に解き明かされる謎に、気がつけば夢中になってしまう作品で
す。
日本の古代史が好きな方、謎や不思議が好きな方におすすめです。


Photo_14 もうひとつご紹介したいのが諸星大二郎「妖怪ハンター」シリーズです。
心霊現象・太古の神々の存在を信じる異端の考古学者・卑田礼二郎
(古事記の語り部と言われる稗田阿礼に由来)が活躍するシリーズです。
各話完結で古事記、日本書紀、平家物語といった古典をモチーフに、
独特の絵柄でとても変でとても恐ろしい、でも面白い世界を構築しています。
Photo_15 このシリーズのひとつであるイエス・キリスト復活をモチーフにした名作「生命の木」

「奇談」というタイトルで映画化されていますが、映画をご覧になった方も
ご覧になっていない方もぜひ原作のもつ独特の味わいを
確かめてみてほしいと思います。
Photo_16 東北地方に残る隠れキリシタン信仰に作者独自の切り口でせまり、
「もうひとつの」聖書の世界がとてつもないスケールで展開されてゆくさまは
読んでいて戦慄が走ること間違いなしです。
「天狗の宝器」を巡る5人の人間の数奇な運命を描く最新作「魔障ヶ岳」も読み応えが
あります。
古事記や世界の神話、またクトゥルー神話などがお好きなコアなお客様にも
おすすめです。

「宗像教授伝奇考」「宗像教授異考録」

「妖怪ハンター 海竜祭の夜」「妖怪ハンター 黄泉からの声」

「妖怪ハンター 魔障ヶ岳」は、まんたんに置いてあります。

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2007年2月26日 (月)

今、将棋漫画が熱い!?

みなさんこんにちは、まんたんスタッフのうえむらです。

みなさんは将棋はお好きですか?
私は最近までルールすら知らなかったのですが、最近漫画の影響で
なんとなく興味を持ち始めました。
最近、漫画誌、特に青年誌で面白い将棋漫画が目立つような気がします。
今回は将棋漫画というジャンルにスポットを当てて
いくつかの漫画作品をご紹介してゆきたいと思います。

Photo_10 まずは能條純一「月下の棋士」。
古い作品ですが、まさに将棋漫画の金字塔というべき作品です。
ストーリーは高知で伝説の棋士・御神三吉のもとで将棋に明け暮れていた青年
氷室将介が上京し、宿命のライバル・滝川幸次名人との対局を目指すというもの。
連載当時高校生だった私はこの作品の対局中における迫力あり過ぎの描写
(対局中の棋士たちがが涙や鼻水を流すのはまだいいほうでして、
吐血したり失禁したりするんですよ)ばかり悪い意味で注目していまして、
ろくすっぽストーリーを追っていませんでした。
しかし、改めて読むと、勝負の世界で生きる人々の生き様が無駄にかっこよく、
個性的な棋士たちの数々の名言に惹きつけられます。
能條純一の精密かつ華麗な絵は、
将棋という緊張感のある素材に実にマッチしていると思います。
また、登場するキャラクターの殆どが
実在のプロ棋士がモデルになっており、将棋に詳しい人はニヤリとしてしまうかも。

Photo_11 続いてご紹介するのは、「谷仮面」「エアマスター」でヒットを飛ばした
柴田ヨクサルの最新作「ハチワンダイバー」です。
「ハチワン」とは将棋盤の9×9=81のマス目のこと。
主人公は奨励会(プロ棋士の養成機関)くずれの青年・菅田。
あと一歩でプロになれず、賭け将棋で日銭を稼ぐ日々を送っていた彼は
ある女性との出会いにより裏の世界の賭け将棋を生業とするプロ「真剣師」の
世界に足を踏み入れてゆきます。
「真剣」を指すことによって大金が動くのは当然ですが、この漫画の
面白いところは賭けの対象が必ずしもお金だけではないところです。
「俺が勝ったらそよちゃん(件の女性)のオッパイを揉む。お前はどうする?」
「…じゃあ、僕もオッパイで」
こうして文字に起こすとギャグ以外の何者でもないですが、本人たちは至極真剣です。
女性をモノにする、とかじゃなくてただ「オッパイを揉む」ってところがなんともいえずツボ。
漫画家・文字山との対戦では
「僕が勝ったら君はアシスタントとして僕の仕事場で働いてもらう!」
「じゃあ、僕が勝ったらあなたの漫画の主人公を僕にしてください!」
といったとんでもない賭け条件が提示されます。
まだ連載開始されて間もない作品ですが、面白さは折り紙つき。

Photo_12 最後にご紹介するのはかとりまさる/安藤滋郎「しおんの王」。
「将棋」と「美少女」という一見相容れないかに見える要素を盛り込んだサスペンスです。
幼児の頃両親を猟奇殺人事件で亡くし、そのショックで口がきけなくなってしまった少女・紫音。
隣家の安岡八段夫妻に引き取られ、7年後弱冠12歳で女流棋士になります。
しかし、将棋の対局が近づくと紫音のもとには7年前の両親殺害の犯人と思しき人物の影が見え隠れします。
将棋を題材にしながらもミステリーの要素も含み、読んでいると将棋そっちのけで一体犯人は誰?と
推理したくなってしまう作品です。
もちろん将棋の対局面も見もの。各話の終わりごとに対局の解説が棋譜つきで載っており、
将棋がとっつきにくいと思っている人にもおすすめです。
同じ女流棋士の中にもお嬢様の二階堂沙織や、金のために性別を偽って女流棋士になった斉藤歩など、
魅力的なキャラクターが登場します。
口がきけないという設定ながら、紫音の表情は実に豊か。
紫音はスケッチブックに文字を書いて他人とコミュニケーションするのですが、かわいい笑顔とまっすぐな心根が
読者の心をがっちりとつかみます。
つらい過去を背負いながらも、決して勝負から逃げない少女の強さに、
これからも目が離せない作品です。

「月下の棋士」「ハチワンダイバー」「しおんの王」はまんたんに置いてあります。

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2007年2月18日 (日)

ひとつがダメでも、10コあれば…!!「デカスロン」山田芳裕

Photo_8 こんにちは、まんたんスタッフのうえむらです。
最近すっかり運動不足です。テレビなどで引き締まった肉体を持った
スポーツ選手を見るにつけ、だらしなく緩みきった体の自分が
つくづく情けなくなるのですが、いまいち運動しようというモチベーションは
高まらず、そのままに…最後に本気で走ったのはいつだったっけ?
そんな思いを胸に秘めているのは私だけではないのではないでしょうか。

今回ご紹介する漫画「デカスロン」は、そんな慢性運動不足の読者の心を
ぎゅっと掴んで、まるで夏季オリンピック開催期間中の
テレビ中継に影響されて思わずジョギングを始めてしまいそうになる、
あの素晴らしい興奮の中に誘ってくれる、そんな作品です。

皆さんは十種競技(デカスロン)という陸上競技をご存知でしょうか。
100m走、走り幅跳び、砲丸投げ、走り高跳び、400m走、110mハードル、
円盤投げ、棒高跳び、やり投げ、1500m走の10種目を2日間で行い、
10種目の総合得点で順位を競うという過酷な競技です。
この競技で頂点に立つものは、まさに「走・投・跳」全てに秀でた万能の超人なのです。

主人公の風見万吉は19歳。高校時代に野球の投手として活躍しましたが
プレッシャーに弱く、大事な試合で暴投を続けサヨナラ負けを喫したトラウマを持っています。
家業の牛乳屋を手伝いながら
近所の高校で美人教師の村山先生に十種競技(デカスロン)のてほどき
を受け、初めての日本選手権のために新潟から国立競技場へ。

陸上の専門知識もなく、果てしなくバカな田舎モノの万吉が、
この熱すぎる競技にのめり込んでゆくその過程にグングン引き込まれます。
すぐには結果が出ない特殊なスポーツゆえに生まれるライバル達との駆け引き
に息を呑むことまちがいなしです。
そして何より山田芳裕特有のダイナミックな構図や迫力ある人物の表情に圧倒されます。
最後の1500m走なんて、読んでるこっちまで息があがりそうになるんですよ、ホントに。
体力の限界まで力を振り絞って走るアスリート、いやデカスリート達の汗が飛び散る。
まさにキングオブスポーツ!と胸が熱くなる漫画です。

また、十種競技(デカスロン)というのは最後まで誰が優勝するのかまったく読めない
競技です。もし仮に苦手な種目で失敗しても、まだ得意な競技が残っていれば
それに懸けて挽回できるチャンスがあるのです。
作品中で一番好きな万吉の台詞「ひとつがダメでも、10コあれば…!!!」
は、人生のいろんなところに応用できるのではないかとひそかに思っています。

心についた脂肪を燃焼させる漫画、山田芳裕「デカスロン」はまんたんに置いてあります。

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2007年2月 2日 (金)

日本橋ヨヲコ「少女ファイト」

Photo_7 みなさんこんにちは、まんたんスタッフのうえむらです。
世に青春漫画は数あれど、熱すぎる青春群像劇を描かせたら
ピカイチの漫画家・日本橋ヨヲコ。

今回ご紹介する漫画作品はそんな作者の最新作、
バレーボール群像劇「少女ファイト」です。

バレーボールの名門・白雲山学園に在籍する少女、大石練(ねり)、15歳。
小学校時代全国大会で準優勝したチームのキャプテンであったほどの
実力を隠しながら、集団スポーツの中で自分を殺し続ける日々を送っています。

過去の出来事を引きずり続ける練は、予想していなかった練習試合のスタメンに
選ばれ、やっと実力を出した時不幸にも試合中にチームのキャプテンと接触。
そのことが原因に最終的に退部に追い込まれてしまいます。

その後、徐々に明らかになってゆく練の過去。
どんどん苦境に立たされてゆく主人公。そこに現れるキーパーソン。

練が過去の出来事を乗り越え、這い上がるために
かつて自分の姉が在籍していたバレー部のある高校に進学する決意を固めるまでが、
1巻の大まかなあらすじです。

この作品は練をとりまく個性豊かなキャラクター造形、
緊張感のあるストーリー展開が魅力。

バレーボールのルールがわからなくても十分楽しめます。

とにかく何か面白い漫画が読みたい!という方に、自信を持って
オススメする一冊です。

「少女ファイト」1巻はまんたんに置いてあります。
2巻は2月23日入荷予定です。

日本橋ヨヲコ他作品「プラスチック解体高校」
                「極東学園天国」
                「G戦場ヘブンズドア」も置いてあります。あわせてどうぞ。

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2007年1月26日 (金)

古谷実「わにとかげぎす」

Photo_6
皆さんこんにちは、まんたんスタッフのうえむらです。
自分の足元だけ見て歩いて来てふと顔をあげたら、
とんでもないところに来ていた…そんな経験ありませんか?
今回ご紹介する漫画は古谷実「わにとかげぎす」です。

この作者はいわゆるダメ人間の描写が大変巧いことで知られていますが、
今回の作品ものっけから期待を裏切りません。

主人公は深夜の巨大スーパーマーケットでたった一人働く警備員男、富岡。
一人だけのなのをいいことに勤務中に無人の店内で
筋トレにいそしむ彼は今の自分の状況を次のように述懐します。

「そう…言うなればオレは人生という大切な道のりを…
ずっと己の足元ばかり見て歩いて来てしまった愚か者…
皆が行く先をきちんと見据え 正しい姿勢で歩いていく中
オレはずっと下を向いて…まるでゾンビのように…
心ある人に何度か注意されたような気もするが…
わからなかった…オレのことじゃないと思った…
困難という困難を避け…雨水のごとく流される方へ
流される方へと…ダラダラと歩き続けて32年目の春に…
超久しぶりに顔をあげてみると、
オレは…ぜんぜんまったくわけのわからないところに来てしまったのだ!」

気がつけば、友人と呼べる人は皆無。
ましてや恋人などいるはずがない32歳。

「そ…遭難している!オレは人生において遭難している!」

「32年間も…どうして気づかなかったって?
何を考えて生きてきたかって?何も考えていなかった!!
本当にまったく気がつかなかった!基本的に家で寝ていたのだ!!
幼少期も青春時代もずっと!!まるで眠りの刑に服していたように、
グーグーと眠り倒していたのだ!!
その結果…オレは自分が孤独であることすら気づかないほどの
孤独な男になってしまった…」

この「基本的に家で寝ていた」というところにものすごいリアルなダメさを
感じるのは私だけでしょうか。身につまされます。
とにかく今彼が気がついて分かったのは孤独は罪だということ。
思い直した彼はスーパーの屋上から星に願いをかけます。

「神様、友達をください…友達!!」

生まれて初めて心から強く望むものができた彼。
これと同じくらいの努力をしようと心を新たにした時、
なにものかによって店の出入り口に
「警備員へ おまえは1年以内に頭がおかしくなって死ぬ」
という内容の脅迫状が届きます。

この手紙がきっかけとなって主人公はいろいろな人や事件に巻き込まれて
ゆくことになるのですが、その過程で注目すべきは
主人公の内面描写。不安や妄想が化け物の姿を借りて
現出される不気味な様式は健在です。

ちなみにタイトルの「わにとかげぎず」とは同名の深海魚からとられているそうです。

日の光を見ない孤独な警備員。これから彼を待つ運命は…?
この続きは本書を手にとって確かめてみてください。

古谷実著「行け!稲中卓球部」「僕といっしょ」「グリーンヒル」「ヒミズ」
「わにとかげぎす」はまんたんに置いてあります。

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2007年1月19日 (金)

山田芳裕「度胸星」

Photo_5 皆さんこんにちは、まんたんスタッフのうえむらです。
周知のことですが、数ある漫画作品には打ち切り作品というものが存在します。
不人気ゆえに読者がつかず、当初予定されていたであろう連載期間を
大幅にカットして、張りまくった伏線も回収しきれずに
駆け足で最終回へともつれこんでゆく漫画を、誰でも
一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
打ち切り作品の大半は、やはり打ち切りになるだけあって
連載を続けてゆくには力不足であったものですが、
なかには「何でこれが終わったの?」と感じるような
明らかに面白い打ち切り作品もごくわずかながら存在します。
今回ご紹介する山田芳裕「度胸星」は、そんなとてつもなくおもしろい打ち切り作品です。

アメリカが誇る人類初の有人火星探査船・スキアパレッリ号。
探査船の乗組員が人類初の火星上陸を果たしたその直後、突如としてその
通信が途絶えてしまいます。
これを受けて早急に乗組員救出計画を立てたアメリカは、世界各国で
学歴・国籍を問わない宇宙飛行士候補を選抜することになります。

日本の宇宙開発事業団NASUDAで行われるその選抜に挑むのが、
主人公の三河度胸。亡き父の後を継いで大型トラックの運転手を
していましたが、ひそかに宇宙飛行士になるための勉強を続けていた
今時珍しい無口で純朴な青年です。
過酷な訓練と容赦ない選抜試験を持ち前の「度胸」で勝ち抜いてゆく主人公。
ライバルたちにもさまざまな個性があり、それが物語にメリハリをつけています。

一方そのころ火星では、突如として現れた謎の「高次元生命体」によって
他の乗組員を惨殺され、たった一人生き残った宇宙飛行士が、地球と交信を
取ろうとやっきになっていました。
人智を超えた物体と命を懸けて対峙する彼の姿は、並みのホラーの比では
ありません。

果たして火星にいる乗組員を救うことはできるのか?
そして火星に行けるのは誰なのか?

…と盛り上がって盛り上がって主人公がついに火星へ向けて
出発するところで、なぜか、なぜか打ち切りになっています。

未完とはいえ、宇宙飛行士選抜試験のリアルさ、
そして高次元生命体と宇宙飛行士のやりとりは必見です。
是非読んでみてください。

そしていつかこの作品がどこかの雑誌で連載再開してくれることを

うえむらは願ってやみません。

山田芳裕「度胸星」「へうげもの」「デカスロン」「泣く男」は
まんたんに置いてあります。

Photo_2

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2007年1月14日 (日)

武富健治「鈴木先生」

Photo_3 皆さんこんにちは、まんたんスタッフのうえむらです。
今回ご紹介する漫画は武富健治「鈴木先生」です。
この作品は不肖うえむらが多くの人に読んでもらいたいと思う作品の一つです。

公立中学で2年生の担任を務める若手教師の鈴木先生が、
生徒たちが巻き起こす数々の問題と真剣に向き合い、ひとつひとつ丁寧に解決してゆく
物語です。こう書くとよくありがちな「教師モノ」でくくられてしまいがちですが、
この漫画の描写力はそのような枠に留まりません。
扱っている問題は小さな学校の中で起きている小さな出来事ですが、
そこから一触即発のドラマ展開が幕を開けるのです。

第1話で登場するのは、席替えをした直後から
給食時間にわざと汚い言葉を並べ立てて
周囲の生徒の食欲をなくさせるという問題行動を起こす男子生徒。
カレーライスを前に「げりみそ」と言ったりして隣の席の女生徒の反感を買います。
この男子生徒は成績も優秀で両親も教育熱心、普段なら絶対にそんな行動は
考えられない生徒でした。そのあたりをおかしいと思いながら
鈴木先生が彼を呼び出して問いただしてみると、

「見ててわかんないんだったら言ってもわかりません!」
「本当はわかってるくせに」

と、突っぱねられます。鈴木先生は彼から3日の時間をもらい、その問題行動の
動機を見極めんと四苦八苦します。その結果鈴木先生は見事男子生徒の
問題行動の原因を突き止めますが、その「真実」に至るまでの過程がとにかく
スリリングで迫力満点、読み手を翻弄します。
この「真実」はあえてここでは明かしません。ぜひ、本書を手にとって
確かめてみてください。驚きと納得、そしてこの「問題」の思わぬ根の深さに
考えさせられることうけあいです。

第2話では給食で一番残し率が高い酢豚が問題になります。
その不人気ゆえに酢豚は給食のメニューから除外されることが決定されるのですが、
ある酢豚好きの女生徒はそれを知って大ショック。なんとかならないのかと
鈴木先生につめよります。鈴木先生はそれを受けて学年で酢豚に関するアンケートを
行うことになるのですが、これがまたじつに考えさせられる結論に至るのです。

「キライなものがひとつあるということがこんなにも他人や社会に
つらい思いをさせることがあるんだってこと…直視してみるとまいるね」

第3話では、、鈴木先生のクラスの生徒が他クラスの友人の妹(小4)と
性的関係を持っていたという事実が親や教師に露見するという事件が発生。

「15歳(高校生)だったらよくて9歳だとダメな理由ってなんなんですか?」
「みんなが結婚するまでガマンしてるならオレだってぜんぜんガマンするよ!
ガマンできなかったヤツが全員有罪で全員罰受けてるなら俺だって同じだけ
罰受けるよッ!!」

この男子生徒の言い分にどう答えるか?
なぜ小学生と中学生は性交渉を持ってはいけないのか?
この厄介な問題に鈴木先生はどう裁きをつけるのか、しつこいですが
ぜひ読んで確かめてみてください。あなたの「こうなるだろう」という
予想を裏切るとともに、説得力を持つ結末に驚かされることでしょう。

武富健治「鈴木先生」1巻はまんたんに置いてあります。
2巻は2月28日入荷予定です。

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2007年1月11日 (木)

福満しげゆき「僕の小規模な失敗」

Photo_4 あけましておめでとうございます、まんたんスタッフのうえむらです。
遅ればせながら、今年もよろしくお願いします。

さて、本年最初にご紹介する漫画作品は、福満しげゆき「僕の小規模な失敗」です。
昨秋、週刊モーニングに続編が掲載されたので作者名をご存知の方も多いかと思われます。

この作品は、いまや「最後のガロ系漫画家」の異名をとる作者いわく、
「たいしたことのないヤツ版の『まんが道』」です。
この作品では漫画を描き始めてからの作者の「今まで」が描かれているわけですが、
その「今まで」について作者はあとがきで次のように語っています。

「僕は『自分』も『自分の今まで』も、ずっとイヤでイヤでしかたがなくて、
イヤなことがあるたびに『死にたい』だの『生きているのがイヤだ』だのと、
しょっちゅう思ってきました。」

この作品内で描かれる漫画家を志す主人公は、
まさにそんな言葉を体現したさえない男の子です。
入学した工業高校に馴染むことができない彼は漫画を描き始めるのですが、
その動機からして消極的というか、
いかにも現実にありそうなダメな妥協の仕方をしています。

「僕はマンガを描くことにした。昨日はギターを覚えてバンドを組んで
既成概念をブッ壊してやる!!…とか思ったが、人には適性ってものがある…
だいたい僕にはそんな友達がいない。」

その後、工業高校を留年の末中退。

「恋愛ゲームにも参加できず…漫画コンクールで相手にされず…
学歴コースからも脱落しちゃって…ぼくはまだどのスタート地点にも立ててない
わけだから…まだ何も始まってもいないのに…もう…ずいぶん失敗しちゃったような…」

まさに挫折だらけの青春ですが、この作品の主人公のすごいところは
なんとかさえない現状を打破しようと精一杯もがき、あがくところです。
再入学した定時制高校で柔道部を設立したり、生徒会長に立候補したり、
その行動力には目を見張るものがあります。
もちろんその行動は「このままじゃ…こんなとこ居れない…何か始めなければ!」
という焦りからきているのですが、定時制高校に通いつつ、放課後に柔道をやり、
それから漫画を描く…というエネルギーは素直にすごいと思います。
実際は何かを始めなければと思いながらもできず、気に入らない日常にも
怠惰で折り合いをつけて、無気力に日々に埋没してしまう若者が大多数なのでは
ないでしょうか。

しかし、これだけやっても主人公は充実感とは無縁です。
柔道部部長として大会に出場、3位に入賞しても家に帰れば
「みんながデートしているであろう日曜日に3位がどうとか言って…はあ~…」
と、ため息をついています。そう、彼にとって最大のコンプレックスは
「女性にもてないこと」。女性とコンタクトをとることの困難さに比べたら、
それ以外のことなど大した価値がないのです。
その証拠に、友人を介してやっと知り合った女性に
激しくメロメロになり、スムーズに会話するために飲酒して泥酔し、
セクハラまがいのことをして嫌われる…という悪循環に陥ってしまいます。
「女性にもてないのが悩み」というのは裏を返せば「女性にもてたい!」と
強く思っているということ。それだけエネルギーに満ちているということだと思います。
行動力があるのも当然なのです。

たぶん、この作者は「こうありたい」という理想がとても高い人間なのだと思います。
だからこそ行動し、努力し、もがいてあがき続ける。
それは実は一番大事なことなのではないでしょうか。

福満しげゆき
「僕の小規模な失敗」「まだ旅立ってもいないのに」「カワイコちゃんを2度見る」     
は、まんたんにおいてあります。

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2006年12月23日 (土)

「現代人の弱さ」真鍋昌平「闇金ウシジマくん」

Photo どうも、まんが喫茶東京漫画探偵団(TMT)スタッフのうえむらです。もうすっかり師走ですが、皆さんどう過ごされていますか?年末といえば歳末助け合い運動。江戸時代の町人などはこの時期、いろんなお店の借金取りから追い回されていた、なんてよくききますね。うえむらもこの時期、別にお金に困っていなくてもなんとなくソワソワした気持ちになったりします。だからというわけではないのですが、今回ご紹介する漫画は真鍋昌平「闇金ウシジマくん」です。

主人公は法定金利を逸脱した利息(10日5割)で金を貸し付ける違法金融業者(通称闇金)。主人公が金融に携わっている漫画といえば、長寿漫画「ミナミの帝王」や「ナニワ金融道」などが有名ですが、主人公が(客がどんな目に会おうが)とにかく冷徹に「自分の仕事」をやり通すという点で、他の漫画とは一線を画しています。いうまでもないですが、決して楽しい気持ちになれる漫画ではありません。むしろ全部通して読むと気分が沈む漫画です。ただ、小泉政治以降の「格差社会」や現代を生きる人々の心の暗部などを考える際、とても参考になる作品ではないかと思うのです。

主人公・丑嶋は自身の営む会社「カウカウファイナンス」の新入社員に向かってこう言います。

「世間一般ではよ、『極悪人の闇金業者』が『善良な一般市民』から金を毟り取るってイメージだがとんでもねーぜ」

「こっち(闇金業者)からみりゃあ、債務者は怖い!相手が何者かわからねェーンだ!」

「中には最初から騙すつもりで金を借りにくる詐欺師や、闇金業者が違法なのを逆手にとって恐喝してくるヤクザみたいな連中もいる」

「頭がぶっ飛んでる多重債務者から金を回収するのは楽じゃねェ!まじめな客を掴むのは大変だ、だからよ…金はテメエの金と思って貸せ!」

カウカウファイナンスの客は、普通の消費者金融から金を貸してもらえなくなったブラックリストの連中がほとんどです。パチンコ依存症の主婦、見栄っ張りなために買い物依存症気味の若いOL、ギャンブルに身を費やす三十路の男…すべての客が闇金丑嶋の手で地獄に突き落とされてゆきます。その転落劇は本当に見ていて恐ろしいものがありますが、それ以上に怖いのはそれでもパチンコを、買い物を止められない人々の姿です。何が彼らをそこまでかきたてるのか、と問われれば、その答えはただひとつ、金なのです。

「あと1万入れれば絶対に出るンです!なんでもしますから!」

「私にはお金が必要なの!笑うなよォ~!」

この台詞のある場面は是非実際に本を手にとって読んでみてください。金銭感覚が狂った現代人の病理のようなのものがひしひしと感じ取れます。

社長には罪悪感がないのかと社員に問われ、丑嶋はこう答えます。

「お前に罪悪感があるなら、なぜ日常では感じない?豚を殺す罪悪感もなくこま切れ肉を喰い、自然を壊す罪悪感もなくモノをゴミにする。今の生活は負担を感じないようにできてるから人間が鈍感になる。」

この作品を読んで「自分だけは大丈夫」なんて思っていると逆に危ないのかもしれません。どんな人間にもこの漫画に出てくる債務者のようになる可能性があるとうえむらは思います。現代人は本当に弱い部分を沢山抱えて生きていますから。

「闇金ウシジマくん」は東京漫画探偵団「まんたん)に置いてあります。

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2006年12月15日 (金)

「リアルな感動」ちばあきお「キャプテン」

408617062009 皆様はじめまして。まんが喫茶東京漫画探偵団スタッフ・ うえむらと申します。

これからこのブログ内にて お店に置いてある漫画を
新旧問わずどんどん紹介していく予定ですのでどうかよろしくおつきあいください。

今回ご紹介するのはちばあきおの「キャプテン」。
初回ということでスタンダードに少年漫画の王道、野球漫画のご紹介です。

舞台は荒川が流れる東京下町。
野球の名門・青葉学院から墨谷二中に転校してきた主人公・谷口タカオは入部した転校先の墨谷2中野球部で「あの青葉から来た」ということからすごい実力の持ち主だと部員から誤解されてしまいます。しかし、彼は青葉では補欠でした。それも二軍の。
気が小さくて本当のことを言い出せず、困った彼は
父親に協力してもらって特訓することになります。

この漫画にはいわゆる少年向けスポーツ漫画に
ありがちな「天才」は出てきません。
野球の腕もそこそこで、気が小さかったり、短気だったり、
無愛想だったり、空気が読めなかったりする、
いかにもそのへんにいそうな中学生たちが、
仲間と一緒に努力して成長してゆく物語です。

すごい必殺技やかわいい美少女ヒロインなどももちろん出てきません。地味といえば地味な漫画です。しかし、決して退屈ではありません。その親しみやすいキャラクターが、
リアルな感動を伴って私たちにせまってくるからです。
その感動は「もしかしたら自分も頑張ればできるかも」という気持ちを読者の胸におこしてくれます。


主人公・谷口くんは、凡才であるがゆえにとても真摯な努力をします。影の努力を怠らなかった彼は実力をつけ、2年の終わりに先輩から次期キャプテンに選出されます。そして、徐々にリーダーシップを発揮し、とにかく「がんばる」ことでチームを引っ張っていくことになります。そして彼が卒業し、主人公が後輩にバトンタッチされた後も、その「谷口イズム」は後輩たちに継承され、墨谷二中は強豪校の仲間入りを果たしてゆくのでした。

少年漫画におけるスポーツものは、
とにかくバトルー「戦い」-に重点が置かれがちです。
とにかくすごく強いキャラクターばかりが主人公の周りに現れ、
それを平然とうち負かす主人公という図式がどんどん
作品中の「強さ」のインフレを引き起こしてゆき、
もうすでにそのスポーツ競技を超えたスーパーマンだらけの
超人オリンピック状態
と化してしまった漫画のなんと多いことか。

もちろんそういう漫画にはそういう漫画の楽しみ方がありますし、面白さのベクトルを否定するわけではありません。しかし、昨今の子供たちの特性として挙げられる「根拠のない自信」はこのような漫画の影響もすくなからずあるのではないかと感じます。


本当の自信というものは「これだけやった」という努力によって生まれるということを知ってもらうためにも、大人だけでなく現代の小中学生にも是非読んでもらいたい漫画です。
   

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